退職金は法的に必ず支払わなければいけないものですか?
現在日本の約9割弱の会社で導入されている退職金制度ですが、法的には支給しなければならないということはありません。ただし、退職金規程で退職金が制度化されていたり慣習として退職金を支払っているような場合は、労働法上「労働契約」となり、従業員に対して必ず支払わなければならない約束事となります。
労働基準法には「退職手当(退職金のこと)の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(労基法第89条第3号2)を決めなさいと書かれているのですが、そもそも「退職金を払いなさい」とはどこにも書かれていません。つまり本来は退職金とは、会社が従業員に対して支払う義務のない恩恵的なものなのです。ただし、会社に支払う決まりがあれば支払う義務があるということです。
多くのベンチャー企業では最初から退職金制度を設けなかったり、最近では、従来の退職金制度を廃止して、その代わりに毎月一定の手当を支給する「退職金前払い制度」を導入する会社も徐々に増えてきています。
恩恵的なものであれば会社の都合で支払えない時や、支払いたくない場合には、支払わなくてもよいのですか?
いったん退職金規程などで制度化されると、退職金は必ず支払わなければならない「賃金」として扱われます。つまり給与の額を勝手に下げたり支払わないことができないように、退職金についても法的な保証がなされ、勝手に払支わないということはできません。
今の退職金制度を廃止したり変更することはできますか?
制度を廃止または変更する時点の前と後に分けて考える必要があります。まず制度を廃止(変更)するまでの過去の勤続期間に対する部分(前)については既得権になるため旧規程に基づいた内容を保証することが必要です。もしこの部分を減額するということであれば従業員ひとりひとりの同意を取るしかないため現実的には相当難しいでしょう。これからの勤続期間に対する部分(後)については、廃止や変更により従業員が受ける不利益の度合いがどの程度ならば許されるかは個々の事情によりますが、不利益を軽くするための移行期間を設けたり、退職金制度を廃止して前払い制度を導入する代替措置を講じるなど、従業員に十分に説明し理解をしてもらい同意を得た上で制度設計をしてくことで制度の廃止や変更が可能になります。ただし、将来のトラブルを避けるためには従業員ひとりひとりの同意を文書で取っておくことをおすすめします。
退職金制度改革を行うにあたり最初に気をつける点はどこですか?
退職金「制度」の問題と「お金(退職金の原資)の貯め方」の問題を切り離して考えることです。この点を混同してしまうと話がわからなくなってしまいます。例えば現在退職金制度改革に悩んでいるのは適格退職年金(以下、適年)の契約をされている会社でしょう。適年は平成24年3月末をもって廃止になるため、他の制度に移行する必要が迫られているからです。「適年」はそもそも「お金(退職金の原資)の貯め方」の方法のです。退職金の取り扱いは、「制度」としての「退職金規程」により、誰に、いつ、どうやって、いくら支払うか(例:「○年勤務した場合退職時の基本給×支給率」)が決められています。その約束したお金は銀行に預けても、生命保険会社に預けて運用してもらっても(適年)よいのです。つまり「適年」は「お金(退職金の原資)の貯め方」の方法のひとつにすぎません。ですから「適年」を他の制度に移行したとしても「貯め方」の問題が解決しただけであり、退職金「制度」を変えない限り今まで通りの退職金の支払い義務があるということです。当然「適年」を廃止しても退職金の支払い義務はなくなりません。
退職金改革を考える時、「制度」を見直し「貯め方」を検討することが必要です。
(菅原) |