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今回は、どのような「不利益変更」であれば「合理的なもの」として許されるのか、を検討します。
まず、当該退職金規程が「不利益変更」に該当するかどうか、一義的に明らかでない場合があります。例えば、給与規定との連動によって退職金の形ではなく、賞与等で給与体系全体の変更がある場合には全体としてどう不利益かが明らかではありません。
この場合、不利益変更かどうかを議論するのは有意ではないので、最高裁は、労働者に現実に生ずる不利益が判然としない場合であっても、不利益該当性を広く解して、不利益変更判断をしています。
次に、「合理性」の判断はどうすればいいでしょうか。
判例の就業規則の不利益変更に関する基本的な判断の枠組みは、「変更の必要性と変更内容の相当性(合理性)の相関的比較」によります。すなわち、変更の必要性が大で変更内容の相当性が大(不利益変更の程度が小)であればあるほど、就業規則変更の合理性が肯定されます。逆に、変更の必要性が小さく、変更内容の相当性も小(不利益変更の程度が大)であれば、就業規則変更の合理性が否定されることになります。
ところで、退職金は、労働者の重要な労働条件です。退職金によって住宅ローンの完済あるいは前倒し返済を考えているサラリーマンもいます。その計画が変更を余儀なくされることは退職後の人生設計に大きな影響を及ぼします。そこで判例は、就業規則の変更対象が賃金、退職金等の重要な労働条件の場合には、通常の場合よりも「高度の必要性に基づいた合理的な内容」が必要となるとして、そのハードルをより高くしています。
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