紀伊國屋書店週間ベストセラー第一位の「ホームレス中学生」(著者:田村裕)を読みました。
現在、お笑いタレントとして活躍する筆者が中学生のとき、突然、財産の差し押さえという理由から家族が離散する。父、兄、姉、自分の4人は別々の生活を送ることになるが、持ち物・所持金もほとんどなく、自身は、かばんひとつで公園生活をすることとなる。
兄、姉から一緒に暮らそうと言われるが、本人は迷惑をかけることを心配し、一人で生活することを選択する。寝る場所は公園の滑り台の中、食料も買えない日があり、まさにホームレスとしての生活を送る。中学生なりに頭を使い賢く生活するものの、やはり生活弱者となり最低の生活を送ることになる。しかし、幸いにもこの状況から救われることになる。救ったのは、友人、友人の家族、地域の人々。
筆者の中学生にしてホームレスとして送る生活にも興味深いが、筆者を救う周りの人々、地域社会にも興味が持てる。そして、社会保障制度のあり方についても考えさせられる。
偶然会った友人に食事をさせてもらうことを頼み、家に連れて行ってもらう。そこで事情を察したその家の家族が、一時的に同居させてくれ、さらに地域の人とも協力し、兄弟3人が一緒に生活できるように安いアパートを借りてくれる。そして、生活保護の申請手続きもしてくれる。
現在の社会保障制度には弱者を救う生活保護等、さまざまな制度があるが、すべての国民が制度や制度の利用法まで認識しているだろうか。筆者のような生活弱者は他にも大勢いる。社会保障制度の認知と、手続きの簡便性が必要ではないか。
また、現在では、薄れてしまっている地域社会との関係の重要性に気づかされる。筆者は友人の家族や近所の人に救われ、ホームレス生活から抜け出すことができる。しかし、地域とのつながりが希薄である都会の中では、他人同士が助け合うこともなかなかできないだろう。 |
本書は生活弱者の生活を救う手がかりとなる一冊ではないだろうか。それ以外にも、筆者は周りの人にとても感謝をしながら生きている。家族、友人、地域の人々、学校の先生…その人間性にもひかれる。こんな生活を強いられ、父親を恨んでもおかしくない状況でも、父親も精一杯自分たちを育ててくれて苦労をしてきたから今度は自分たちが親孝行をし、父親を守る番、一日も早くそうしたい、といえる筆者の人間性がすばらしい。
(川口) |