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退職金を支給するか否か、いかなる基準で支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられている限り、それは任意的恩恵的給付であり、労働者に退職金請求権はありません。近時は、終身雇用のような長期雇用ではない労働関係も増えてきており、それに伴い退職金規程を有しない企業も多く見受けられます。
しかし、労働協約、就業規則、労働契約などで支給すること及び支給基準が定められている場合、使用者に支払義務があります。
就業規則で退職金規程が決まっている場合、基本的に使用者に就業規則変更権が委ねられているものであるが、その労働者に不利益な変更は認められるでしょうか。
この点について、就業規則を法規範と考えるのか、それとも契約と考えるのかという法的性質論との関係で多様な学説が生まれてきました。
しかし、わが国の経済状況の中で、労働者に対して継続した労働関係を保障し、解雇を制限する一方で、使用者に対して経済状況の変化に対応して経営に弾力性を認める必要性があります。実務家としては、その両者の利益の調整弁として、解雇に変わる労働条件の変更を就業規則による「一定の範囲での不利益変更」を認めざるを得ないという実質的な利益調整のバランス感覚が働きます。
最高裁は、秋北バス事件で、「就業規則の不利益変更は原則的に許されないが、統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則が合理的なものである限り、個々の労働者の同意のいかんに関わらず、その不利益に変更された就業規則の適用がある」旨を判示しています。
< 次号に続く >
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