偽装請負問題は平成18年夏頃から新聞を中心としたマスメディアで報道され、偽装請負を行っていた企業への社会的批判が高まりました。また厚生労働省も同年9月4日に「偽装請負に対する当面の取組について」と題する通達を発し、偽装請負に対する監督指導強化の姿勢を打ち出しました。この通達において「労働者派遣法等違反」と「労働基準法や安全衛生法等に定める事業主責任があいまいになる」という点から偽装請負を問題としています。
ちなみに平成18年度の「偽装請負」が理由の是正指導例は2,646件で、前年度の2.7倍に及んでいます。このような行政の監督指導強化等の背景の下、製造業、物流業、情報サービス業を中心にこの問題への対応がすすめられています。
労働契約の本質は、労働者が労務を提供し使用者はその対価として賃金を支払うという関係にあります。しかし使用者は賃金を支払えばよいというだけではなく、労働者に対して指揮命令をし、その労働力を使う過程で労働者の安全と健康に配慮する義務を負っているのです。下の図を見てもおわかりの通り「業務に指示/命令」と「安全管理責任」は一体となっているものです。
ところが「偽装請負」では、発注業者は請負業者の労働者に対して直接指示命令し業務を行わせていますが、安全管理責任の認識は低く、請負業者も労働者を単に発注業者先に派遣しているだけで、安全管理責任に対する認識は希薄だという現実があります。
つまり偽装請負では請負業者の労働者の安全管理責任がどこにあるのか非常にあいまいになっているのです。偽装請負問題の本質はこのような職場で働く労働者の生命・心身の健康をいかにして守っていくかという点にあるでしょう。
「派遣」と「請負」の違いのポイントは「労働者への業務指示を誰が行うか」という点になります。「派遣」では、派遣先の企業が仕事の指示を行いますが、「請負」では発注業者ではなく、雇用契約を結んでいる請負業者から仕事の指示がでます。発注業者と労働者との間には指示命令関係が生じません。
また、指示命令系統に従って安全管理責任が生じ、「派遣」の場合は、就業場所に係る設備、機械等一切の安全管理者は派遣先となり、一方「請負」では、発注先の請負業務に使用する設備、機械等の安全管理責任は請負業者となります。
しかし、労働者派遣と請負とを明確に区分することは難しく、請負が労働者派遣法を脱法する手段として用いられる恐れがあります。また偽装請負だという認識のないまま偽装請負の実態となっているケースもあります。
そこで疑問のある場合は、自社の実態を厚生労働省や都道府県労働局から示されている「自主点検表」で点検してみることをおすすめします。
・厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kaisei/dl/ukeoi.pdf
・東京労働局 http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/haken/index.html
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