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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

臨時号 平成23年3月18日

東北地方太平洋沖地震の影響による労務管理上の問題について

東北地方太平洋沖地震の発生から1週間が経過しました。
まだまだ不安な日々が続いておりますが、ご自身、社員の皆様、ご家族・ご親族の皆様はご無事でしょうか。
このたび大きな被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げますとともに、皆様のご無事と一日も早い復旧を心からお祈り申し上げます。
さて、東北地方太平洋沖地震の影響による労務管理上の問題に対して、主だったものをまとめ「人事・労務 KAWA-RA 版 臨時号」としてお送りさせていただきます。
皆様方の労務管理に少しでもお役に立てば幸いでございます。

川口社会保険労務士法人 代表社員 菅原 由紀

~ 項 目 ~

(1) 交通遮断のため出勤できない社員に対する賃金の支払い
(2) 公共交通機関の乱れによる遅刻した社員に対する賃金の支払い
(3) 公共交通機関の乱れによる帰宅困難を避けるため、早退した社員に対する賃金の支払い
(4) 通常の通勤経路や通勤手段以外で通勤した社員への別途交通費の支払い
(5) 社員を自宅待機された場合の賃金の支払い
(6) 地震による休業日の賃金の取り扱い
(7) 地震による休業日の年次有給休暇への振り替えの可否
(8) 計画停電の実施による一部休業の取り扱い
(9) 計画停電の実施による全部休業の取り扱い
(10) 計画停電が予定されていたが実際には実施されなかった場合の取り扱い

本文をお読みになる前にご理解いただきたいこと

<労働基準法第 26 条>
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中該当労働者に、その平均賃金の100 分の60 以上の手当を支払わなければならない。

■ 法の趣旨

労働者に責任がないのに働くことができず、そのためその期間中の賃金が得られないとなれば、労働者は大変生活に困ることになります。そこで使用者側に責任がある事由によって労働者が労働できなかった場合に、その休業期間中、使用者は労働者に対し平均賃金の100 分の60 以上を支払うことを定め、労働者の生活の保護を図ろうとするものです。

■ 主な用語の説明

I.「使用者の責に帰すべき事由」
「使用者の責に帰すべき事由」とは、使用者の故意、過失またはこれと同視することができる事由ですが、これには不可抗力によるものは含まれません。「不可抗力」というためには次の2 つの要件が必要です。


II. 休業
「休業」とは、労働者が働く意思を持ち、労働を提供する用意があるのに、それが拒否される、または不可能になった場合をいいます。1 日の一部を休業した場合も労基法第26条でいう「休業」です。

III. 平均賃金の 100 分の60 以上
労基法第26 条で支払い義務があるのは、平均賃金の100 分の60 です。従って、労働協約、就業規則等で100 分の60 を超える休業手当を定めることは各企業の自由です。
1 日の一部を休業した場合は、労働した時間の割合で既に賃金が支払われていても、その日について、全体として平均賃金の100 分の60 に達していなければ、その差額を支給する必要があります。

(1) 交通遮断のため出勤できない社員に対する賃金の支払い

労働契約においては、労働者は労働の義務を負い、使用者がその労働を受領する義務を負っています。このため、労働者は労働の義務を果たすために、労働日には始業時刻までに所定の場所(会社等)に出勤し、所定労働時間働く義務があります。
交通遮断は労働者の責任ではないのですが、通勤が困難であっても労働の義務が免除されるわけではありません。
従って、労働提供ができないのであれば、ノーワーク・ノーペイの原則により、使用者は賃金を支払う義務はありません。

(2) 公共交通機関の乱れによる遅刻した社員に対する賃金の支払い

(1)と同様の理由から、ノーワーク・ノーペイの原則により、遅刻した時間について、使用者は賃金を支払う義務はありません。

(3) 公共交通機関の乱れによる帰宅困難を避けるため早退した社員に対する賃金の支払い

労働者は所定労働時間働く義務がありますが、従業員の帰宅困難を避ける配慮から、早退を認める措置を講じることは会社の自由です。これにより、労働者の判断で早退した場合、ノーワーク・ノーペイに原則により、早退した時間について、使用者は賃金を支払う義務はありません。
一方、会社の判断により早退させた場合は、不可抗力の要件には該当しません。たとえ労働者への配慮としての措置であったとしても、企業の自主的判断としての早退は、使用者の責に帰すべき事由に該当すると考えられ、休業手当の支払いが必要でしょう。

(4) 通常の通勤経路や通勤手段以外で通勤した社員への別途交通費の支払い

労務提供義務(債務)は「持参債務」という考えから、その労務の提供(債務の履行)のためにかかる費用は、労働者が負担すべきものと考えられます。そのため、通常支給の通勤交通費も必ず払わなければならないというものではありません。従って、別途支給の交通費も支払う義務はありません。
しかし、これはあくまでも法律論であり、今回のような非常事態では企業ごとに判断する必要があります。このような状況下ではある程度無理を強いての出勤要請です。そのため、一定の配慮を行うことが望ましいと思われます。

(5) 社員を自宅待機された場合の賃金の支払い

会社の配慮で出勤を免除し、労働者の判断で自宅待機となった場合、ノーワーク・ノーペイの原則により、自宅待機となった日について、使用者は賃金を支払う義務はありません。
一方、労働者の意思にかかわらず、会社が大事をとって自宅待機を命じた場合は、不可抗力の要件には該当せず、たとえ会社の配慮としての措置であったとしても、企業の自主的判断としての自宅待機は、使用者の責に帰すべき事由に該当すると考えられ、休業手当の支払いが必要でしょう。

(6) 地震による休業日の賃金の取り扱い

当該休業の原因が、使用者の責に帰すべき事由に該当するかどうかが判断の基準になります。 例えば、地震による交通遮断があっても、大半の労働者が出勤可能であり操業もまた可能であるにもかかわらず、全員を休業させた場合は、休業手当の支払いは必要と考えます。
一方、出勤可能な労働者がごくわずかで、その人数での操業は無価値、無意味となる場合は、たとえ休業をしても休業手当の支払い義務はないものと思われます。
ただし、労基法第26 条の「使用者の責に帰すべき事由」はかなり広く解釈されるため、実務上は、地震で社屋が倒壊した等あきらかに不可抗力といえる場合以外は、休業手当の支払いは必要と思われます。

(7) 地震による休業日の年次有給休暇への振り替えの可否

労働者が自らの年次有給休暇の権利を行使することによって、休業日の賃金を確保するために労働者の申し出により休業日を年次有給休暇へ振り替えることは可能と考えます。
ただし、会社が従業員に対して、年次有給休暇の取得を強制することはできません。

(8) 計画停電の実施による一部休業の取り扱い

計画停電に関しては、別紙の通り、平成 23 年3 月15 日に通達が発せられました。
それによれば、計画停電の時間帯に休業させることは、不可抗力の要件に該当し、使用者の責に帰すべき事由に該当しないため、休業手当の支払いの必要がありません。

(9) 計画停電の実施による全部休業の取り扱い

計画停電の時間帯以外の時間帯の休業は、不可抗力の要件に該当せず、原則として使用者の責に帰すべき事由に該当するため、休業手当の支払いが必要です。
なお、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めた休業を回避するために具体的に努力し、他の手段を検討した結果、当該計画停電の時間帯以外の時間帯も含めて休業しないと、企業の経営上著しく不適当であると認められる場合は、当該計画停電の時間帯以外の時間帯も含めて、使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないことになり、休業手当の支給は必要ないと思われます。
ただし、回避努力については厳格に判断されるものと思われますので、この運用は慎重に検討する必要があると考えます。

(10) 計画停電が予定されていたが実際には実施されなかった場合の取り扱い

急に計画停電の予定が変更されて、実際は停電が実施されなかった場合は、計画停電の予定、その変更や内容、それが公表された時期等を勘案して、(8)および(9)に基づき判断することになります。

以上、法律論の立場で説明してまいりましたが、実際には休業手当の支払義務がない場合でも、可能であれば、以下のような対応を考えられても良いのではと思われます。

・勤務したものとして通常の賃金を支払う。
・自宅勤務として賃金を支払う。
・休業手当相当額を支給する。
・特別有給休暇とする。
・いくらかの特別手当を支給する。
・通勤手段がマヒした中、遅刻して出勤してきた労働者に対しては、その分の賃金控除を行わない。
・帰宅困難が予想されるため早退する労働者に対しては、その分の賃金控除は行わない。


このようなときこそ、労使がお互いに心を合わせて協力し合い困難な状況を乗り切ることが何より大切だと考えます。
ひとりひとりがそれぞれの立場で自分のなすべき仕事をし、もてる力を発揮することが、一日も早い日本の復興につながるものと信じております。

なお、ご不明な点・お困りの点につきましては、弊社までお問い合わせください。

TEL 045-210-9260
川口社会保険労務士法人 社会保険労務士 菅原 由紀

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