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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第97号 平成31年1月1日

伴弁護士の法律の窓

[質問]
当社では、職務手当5万円を支給する代わりに残業代の支給はしていません。残業代のトラブルを避けるために、どのような点に注意したらよいでしょうか?

[回答]

本件では職務手当が固定残業代の支給といえるか否かが問題となります。割増賃金を固定額で支給することは違法ではなく、裁判例でも認められていますが、以下の点に注意する必要があります。

  1. まず、まず事業主が固定残業代として支給している手当が、従業員にとっても固定残業代として支給されていることが明確である必要があります。手当の名称に必ずしも「残業代」や「割増賃金」という言葉が含まれていなくてもよいのですが、就業規則や労働契約などで、その手当が固定残業代として支給されていることが明確でなければ、残業代を支払っていることにはなりません。

  2. 次に、通常の賃金と時間外の割増賃金が明確に判別できることが必要です。たとえば、職務手当の中に残業代の趣旨で支給されている部分と、そうでない部分が混在しているような場合、残業代としていくら支給されているか不明確なため、固定残業代の支払いと認められなくなります。
    裁判例の中には、会社が「職能手当」等は時間外手当の趣旨も含めて支給されていると主張したのに対し、割増賃金と他の部分が明確に区別されていないなどの理由で認められなかった事例があります。

  3. さらに労基法によって計算される割増賃金の額が、固定残業代を上回る場合、その差額を支給する義務があります。
    この点、最高裁判所平成24年3月8日付判決において、裁判官の一人は補足意見として「便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、・・・中略・・・10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる」と述べています。
    この意見は、固定残業代を上回る残業代が発生した場合には、その差額を支給する旨があらかじめ明示されている必要があると読むことができます。ただし、これは裁判官1名の補足意見であり、先例としての拘束力はありません。また基本給の中に固定残業代が組み込まれている場合についての意見ですので、基本給と別に固定残業代を支給する本件とは異なります。差額支給の旨が明示されていなくても、直ちに固定残業代としての支払いが無効とされることはないと考えられますが、この点にも留意した方がよいでしょう。

  4. もし、固定残業代のつもりで支給していた職務手当が、残業代の支払いと認められないと、職務手当は割増賃金を計算する基礎となる賃金に算入されるので、かえって残業代を多く払うことになってしまいます。すなわち、割増賃金を計算する場合の基礎賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた手当、⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つを除き全て算入されます。したがって職務手当が、固定残業代の支給と認められないと、職務手当も基礎賃金に算入して、割増賃金の単価を計算しなければならなくなります。
    固定残業代として手当を支給するのであれば、手当の名前も「固定残業代」などと分かりやすくし、その趣旨を労働契約書や就業規則において明確にしておくべきです。また労基法による残業代が固定残業代を上回った場合に差額を支給する旨も明示する方が望ましいでしょう。

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