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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第128号 令和6年3月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

取締役に対する退職金の支払義務

【質問】

私はある会社のオーナー兼代表取締役社長です。他に2名の専務取締役Aと常務取締役Bがおります。Aは、私の息子ですが、取締役間で会議をするときだけ出社する程度の業務しか行っておらず、従業員として勤務した実績もありません。これに対してBは、元々当社の従業員として長年勤務した後に取締役になった者で、現在も従業員だったときと同じように毎日出勤しています。
最近、AB2人とも私に対して反抗的になってきたことから、次の任期満了のタイミングでAもBも退社してもらおうと思っていますが、もしAやBから退職金の支払いを要求された場合、当社としては支払に応じないといけませんか。なお、当社においては、従業員に対する退職金の支払実績はありますが、取締役に対する退職金の支払実績はありません。私自身がAやBに対して退職金の支払いを約束したこともありません。

【回答】

退職金の支払義務の有無は、取締役ごとに個別の判断を要します。

【説明】

1 取締役に対する退職金

まず、会社は、取締役に対して、当然に退職金を支払う義務はありません。会社が取締役の職務執行の対価を支給する場合には、定款又は株主総会決議を要すると規定しており(会社法361条)、取締役に対して退職金を支給する場合も当該規定が適用されると解釈されるためです。多くの会社は定款にて退職金の定めを設けておりませんので、退職金を支給する株主総会決議を行わなければ、取締役に対する退職金の支払い義務を追わない、というのが原則です。

2 「労働者」性が認められる取締役

ただし、注意すべき点があります。肩書きは取締役であっても、その勤務実態が「労働者」(従業員)と認められる者に対しては、退職金の支払を要する可能性が残ります。取締役に比して労働者の方が法的保護が手厚くされており、労働者性が認められれば、株主総会決議がなくとも社内の退職金規程に従って当然に具体的な金額を請求できるためです。
取締役に「労働者」性が認められるか否かは、各取締役毎に個別の事情から総合的に判断します。具体的には、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、取締役に就任した経緯、取締役に就任する前後における担当職務の異同、対価として会社から受領している金員の名目・内容・金額等が従業員のそれと同質かどうか等の事情を総合的に考慮します(東京地裁平成10年2月2日判決、美浜観光事件)。
例えば、従業員として勤務していた後に会社都合で一方的に取締役という肩書を付与されたものの、勤務実態や賃金が従業員であった頃と全く変わっていない者は、「労働者」性が認められる可能性が高いでしょう。

3 専務A又は常務Bに対する退職金の支払い義務

Aは、純粋な取締役で従業員としての実績もありませんので、「労働者」に該当するおそれはなく、退職金を支払う必要はないと考えて良いでしょう。
他方でBは、従業員から取締役になったという就任経緯や、現在も従業員だったとき同じように毎日出勤しているという事情からすると、他の事情次第で「労働者」性が認められる可能性がありますので、注意が必要です。

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