【テーマ】
判決を取得した場合の債務者の財産調査方法
【質問】
1 取引先が売買代金を支払ってくれない、貸したお金が返ってこないなどの問題が生じた場合、任意での支払交渉が困難となれば裁判手続きの利用を検討することになります。裁判手続を行えば、債務者から返済が行われることが多いのも事実ですが、ときに判決がでても返済をしない債務者がいます。この場合、判決を取得した債権者は、債務者の財産を差押えるため、強制執行手続を検討することになります。
しかし、強制執行手続きを行うためには、債務者の財産を特定する必要があります。裏返せば、債務者の財産を特定できなければ強制執行手続を行うことができません。
債権者の財産調査方法の1つに、例えば、弁護士会照会があります。同照会を利用する場合、金融機関だけの特定では足りず、支店まで特定しなければなりませんでした。しかも、金融機関によっては、債務者のプライバシ-保護を理由に、同照会の回答を拒否することもあります。
このように、債務者の財産を調査することは困難を極めるもので、裁判まで行い勝訴判決を取得した債権者であっても、債務者から金銭を回収できないこともあります。
2 こうした状況の中、令和2年4月1日から改正民事執行法が施行され、これまで困難とされてきた次の債務者情報を取得することができるようになりました。
①債務者保有の不動産を差し押えるために、登記所から、債務者の土地・建物に関する情報(新民執205条)
②債務者の給与債権を差し押えるために、債務者の源泉徴収事務を取扱う市町村や日本年金機構等から、債務者の勤務先に関する情報(新民執206条)
③債務者の預貯金債権等を差し押えるために、銀行・証券会社等の金融機関から、債務者の預貯金・証券口座等の情報(新民執207条)
もっとも、次の点に注意が必要です。
まず、①、②を利用するには、先に財産開示手続(民執196条~203条)を経なければならないこと、また、②を利用できる者は、扶養義務に基づく定期金債権(婚姻費用・養育費等)、または人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する者に限定されている点に注意が必要です。
次に③の預貯金等については、弁護士会照会のように支店の特定までは求められないものの、どの金融機関に債務者の情報取得の申立をするか決める必要があります。そのため、通常は債務者所在の周辺に存在する金融機関等を検討することになりますが、ネット銀行等の債務者の所在地と関係のない金融機関を利用している場合には、債務者の預貯金等の情報取得が困難な場合があります。
その他にも、第三者からの情報取得の申立で取得した債務者の情報の目的外利用等の禁止がされ(民執210条)、違反した場合には30万円以下の過料が課せられる(214条2項)点にも注意が必要です。
3 このように注意点等はあるものの、今回の改正により従来よりも債権者による債務者の財産調査の負担が軽減されたことは間違いありません。判決等の債務名義を取得したものの金銭回収ができなかった方、これから金銭回収を予定している方は検討すると良いでしょう。