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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第116号 令和4年3月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

退職勧奨

【質問】

当社に、業務に関して能力不足である上に他の従業員に対して反抗的な態度をとる従業員がいます。当社としては、当該従業員に会社を辞めてもらいたいと考えています。近々、当該従業員本人と退職に関して面談を行おうと思っているのですが、その際に注意すべき点はあるでしょうか。

【回答】

退職を勧める態様によっては、退職を強要したものと捉えられ、会社が損害賠償請求を受けるおそれがあるので、本人と退職について話す際は、注意が必要です。

【説明】

1.会社の従業員に問題があり、会社を辞めてもらいたいと思ったときに、まず解雇を考えるかもしれません。しかし、現行法は解雇規制が強いことから、そう簡単に解雇ができるものではありません。仮に解雇した場合、当該従業員が、解雇が無効であるとして、労働者としての地位確認請求や未払い賃金の支払いなどを求めてくる可能性もあります。解雇が無効であるとの裁判所の判決が出た場合、当該従業員は雇用が継続していたことになるので、解雇してから現在に至るまでの未払い賃金を支払わなければばらないことになります。また、解雇により当該従業員に精神的苦痛が生じたと認められた場合には、慰謝料についても支払わなければならないこともあります。実際に、解雇が無効と判断され、月給29万5000円の従業員について、裁判期間中も含めた未払い賃金が1200万円以上、慰謝料が50万円以上認められた裁判例もあります(福岡高裁平成27年3月31日判決)。

2.このように、解雇をするにはリスクが伴うため、使用者としては、当該従業員に任意で会社を辞めてもらいたいところです。退職勧奨とは、使用者が労働者に対して、任意に退職に応じるよう促し、説得等を行うことをいいますが、退職勧奨自体が直ちに不法行為とされるわけではありません。もっとも、退職勧奨があるとしても、その説得等を受け入れるか否か、説得等に応じて任意に退職するか否かは、労働者の自由な意思に委ねられるものであって、退職勧奨が労働者の自由な意思形成を阻害するものであってはなりません。したがって、退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになります。

 使用者は、労働者の自由な意思決定を阻害しないように、退職勧奨の際、以下の点に気を付ける必要があります。

・対象者との面談が、多数回あるいは長期間・長時間にわたらないようにする(約2か月の間で面談を11回、面談時間最短20分・最長2時間15分で違法となった例があります)
・退職勧奨に応じない場合の不利益を強調しすぎない(例えば、退職しないと処分を検討するなど)
・退職勧奨の対象者が明確に退職する意思のないことを表明した場合には、新たに退職条件を提示するなどの特段の事情のない限り、一旦退職勧奨を中断して時期を改める
・対象者の名誉感情を害することや精神的苦痛を与えることがないよう言動に十分な配慮をする

 

以上の点を留意しつつ、退職勧奨が行き過ぎたものにならないようにすべきです。

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