伴弁護士の法律の窓
【テーマ】
更新料を支払う必要がありますか。
【質問】
私は、大家さんとの間で建物の賃貸借契約を締結しました。契約書には、「賃貸借期間は、令和3年4月1日から令和5年3月31日まで(2年間)とする。ただし、右期間満了前に際し、更新することができる」、「右更新する場合、賃借人は更新料(賃料1か月分)を支払うこと」と記載されていました。令和5年3月31日を経過しても大家さんから更新料の請求はなかったのですが、最近になって更新料を支払うよう請求されました。ところで、賃貸借契約が法定更新された場合には、更新料を支払わなくても良いと聞いたことがあります。そうすると、今回の大家からの支払請求を拒否できるのではないでしょうか。
【回答】
- 当事者間で契約更新の合意がなく契約期間が満了した場合、賃貸借契約は借地借家法の定めに基づき、自動的に契約更新がなされます(法定更新と呼ばれます)。法定更新後の契約条件は従前の内容のままですが、期間について、期限の定めのない契約となります。
- 更新料について、合意更新がなされた際など、契約書に更新料支払特約が明記されていれば、賃借人は更新料の支払義務を有することになります。しかし、法定更新となった場合に、賃借人に更新料の支払義務が生じるか否かは裁判例が別れている状況です。
①更新料の支払義務を認めた裁判例
例えば、東京地裁平成21年1月28日は、「本件賃貸借契約には、合意更新、法定更新にかかわらず契約更新に際して新賃料1か月分に相当する更新料を支払う旨の規定があるところ、…本件賃貸借契約は、…法定更新されたから、被告らには更新料の支払義務が発生したというべくである」と判示し、東京高裁昭和53年7月20日は、「…更新料の性質上法定更新の場合を除外すべき何らの根拠もないので、法定更新が行われた場合にもなお更新料の支払義務があるものというべきであると」と判示し、東京地裁平成10年3月10日は、「更新料の支払いを合意による更新の場合に限定しているとは認められず、賃料の補充ないし異議、放棄の対価という更新料の性質、合意更新の場合との均衡という点に鑑みると…法定更新を除外する理由はない」と判示しています。
②更新料の支払義務を否定した裁判例
一方、否定した裁判例も複数ありますが、例えば、東京地裁平成29年11月28日は、「本件賃貸借契約においては、原被告間の合意により契約期間満了後も賃貸借契約を更新することができること…その文言からは、合意による更新の場合にのみ更新料支払い義務が発生するものと解される」とし、法定更新の場合に更新料の支払義務は不要である旨判示しています。
- これらの裁判例からも確認できるように、法定更新の場合に更新料の支払義務を有するか否かを判断するにあたり、賃貸借契約書上の文言の解釈だけでなく、更新料の性質、合意更新との均衡など、事案に応じて総合的に判断していることが確認できます。
そのため、質問者のケースで、更新料の支払いを拒否できるかは即答できないことになります。もっとも、賃借人の立場からすれば、更新料の支払をした方が無難です。先のように、法定更新の場合に更新料の支払義務が生じるか否かは裁判例でも結論が別れている状況です。そのため、万一更新料の支払義務が認められた場合、更新料の不払いが賃貸借契約の解除事由に該当する場合がありますので、賃借人は現在の居宅から退去せざるを得ない事態を招いてしまうかもしれないからです。
もちろん、事案に応じて状況は異なるでしょうが、法定更新だから更新料は支払わなくても良いと即断できるものではありませんので、くれぐれもご注意ください。