今回は、問い合わせの多い管理監督者について、改めてご案内させていただきたいと思います。管理監督者に対しては残業代を支払わなくても良いと認識されている使用者の方も多いかと思います。管理監督者については、労働基準法に定めがあり、そこでは管理監督者に該当する場合は、時間外・休日労働に対する割増賃金の支払は必要ないとされています。そこで問題となるのは、管理監督者に該当するかしないかの判断だと思います。
管理監督者について、行政解釈によると「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきもの」とされ、3つのポイントで判断されるものとなります。
①経営者と一体的な立場で仕事をしている
②出退勤等、勤務時間について厳格な制限を受けていない
③その地位にふさわしい処遇がされている
この3つの要件を満たす方は、実際には少ないと思います。会社から管理監督者とされ残業代が払われていない方のなかでも、管理監督者には該当しないケースは多いのではないでしょうか。こんな中、裁判の判決でご紹介したい例がございました。「そらふね元代表取締役事件」(名古屋高裁金沢支判令5・2・22)です。ここでは、介護施設で働いていたケアマネージャーが主任であることを理由に、管理監督者として扱われ、残業代が支払われていませんでした。これに対し裁判所は、残業代合計額201万4620円及び弁護士費用20万1462円の支払を命じました。残業代の支払いがない管理監督者はなかなか認められないといえます。なお、ご参考までに判決の中で裁判所は「代表取締役は、社会保険労務士から当該者を管理監督者にすれば残業代を支払わなくてもよいといわれたことから、管理監督者とはどのような立場のものか、当該者の業務が会社の管理監督者にふさわしいかについて社会保険労務士に相談することなく、残業代の支払義務を免れるために管理監督者という制度を利用したにすぎない」と指摘しています。社会保険労務士としては、管理監督者に該当すると助言するのは慎重にならないとと、肝に銘じさせられました。
現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の事業所が、週20時間以上働く短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の加入対象となっておりますが、令和6年10月からは、加入要件が拡大され、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の事業所につきましても加入対象となります。
短時間労働者への社会保険加入の適用を促進するために労働者が社会保険に加入するにあたり、事業主が自らの判断により、労働者の社会保険料負担を軽減するために、被保険者負担分の社会保険料相当額を別途手当として支給した場合には、その手当については、標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外することが可能となります。この手当を『社会保険適用促進手当』といいます。
事業所内での労働者間の公平性を考慮し、新たに加入する労働者のほか、すでに社会保険に加入している同一条件で働く労働者についても、同水準の手当を特例的に支給する場合は対象とすることが可能となります。
標準報酬月額算定から除外されるのは、現状、最大2年間とされております。
2年を超えて引き続き被保険者負担分を手当として支払う場合は、標準報酬月額算定の対象となります。
また、保険料の被保険者負担分を超えて手当を支給する場合につきましても、超えた部分は標準報酬月額算定の対象となります。
なお、社会保険適用促進手当(労働者の社会保険料負担を軽減するために支給するもの)と正しく判断される必要がございますので、期間や金額の上限を超える部分につきましては、手当の名称の変更が必要となります。
実際に社会保険適用促進手当の支給を検討される場合には、あくまで一定期間に限り支給するものであることを労働者に対して十分周知していただく必要がございます。
期間の終了に伴い、手当の支給を取りやめる場合に、不利益変更と判断されないためにも必要に応じて、就業規則(賃金規定)等で定めておくことが必要となります。
最後になりますが、事業主が『社会保険適用促進手当』の支給を行った場合に受けられる助成金として、『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)』というものがございますので、ご案内のみさせていただきます。
詳細は下記URLにてご確認いただければ幸いです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/syakaihoken_tekiyou.html