【テーマ】
労働審判制度
【質問】
当社(A社)は、勤怠不良や能力不足が著しかった従業員Xを普通解雇しました。しばらくすると、その従業員Xから解雇は無効であるとして労働審判を申し立てられました。労働審判とはどのような手続で、当社としてはどのような対応が必要なのでしょうか。
【回答】
1 労働審判制度とは
労働審判とは、個々の労働者と使用者との間の民事紛争について、裁判官1名と労働関係の専門知識を有する労働審判員2名から構成される労働審判委員会が審理を行い、迅速かつ柔軟な解決を目指す法的手続です。審理期日は3回までと定められており、申立てから審理の終了まで概ね3~4か月くらいで終わることが多く、通常の民事訴訟手続と比べスピーディーな解決が期待できます(民事訴訟手続だと解決まで1~2年くらいかかることが多いです)。
2 申立てから第1回期日までの流れ
労働審判では、申立てがされてから40日以内に第1回期日が開かれることになっています。そして、申立てをされた側(A社)は、申立書への反論を記載した答弁書を第1回期日の1週間~10日前までに提出しなければなりません。答弁書には、申立書に記載された従業員Xの主張に対する認否、解雇が有効であるというA社の主張、当事者間でなされた交渉等の申立てに至るまでの経緯などを詳細に記載した上で、A社の主張を裏付ける証拠を提出する必要があります。
申立書がA社に届くのは、申立てがされてから10日後くらいでしょうから、答弁書を作成する時間は実質的には3週間ほどしかありません。3週間という短期間で、申立書の内容の精査、A社の主張の検討、紛争の経緯や関連事情の把握・整理、A社の主張を裏付ける証拠資料の収集を行う必要があるので、かなりタイトなスケジュールとなります。ですので、労働審判の申立書が届いたら、すぐに弁護士に相談をするなど迅速に対応することが肝心です。
3 第1回期日以降の流れ
労働審判の期日には、弁護士に依頼していた場合でも、A社から従業員Xの上司など事情をよく知る担当者が出席する必要があります。期日は地方裁判所で行われ、一回の期日で2時間くらい審理をすることが多いでしょう。
第1回期日では、当事者の主張内容の整理をするとともに、提出された証拠(書証)や当事者への審尋などの証拠調べが行われます。証拠調べの過程で、裁判官や労働審判員から当事者に対して、主張・証拠に関する事項を細かく質問されます。この当事者への質問に対する返答は、裁判官らの心証に大きく影響する可能性があります。また、第1回期日での証拠調べで裁判官らの心証が固まることが少なくないことから、第1回期日の対応が非常に重要になります。そのため、A社としては、裁判官らからの質問に適切に回答できるよう十分準備をした上で第1回期日に臨む必要があります。
証拠調べは遅くとも第2回期日までに終了し、裁判官と労働審判員が評議をした上で、労働審判委員会として考える争点についての判断を当事者双方に示します。この労働審判委員会の心証開示を踏まえた当事者の希望する解決方法を再度聴取した上で、労働審判委員会が調停案(解決案)を示します。当事者はこの調停案を検討することになりますが、調停案の提示が第3回期日の場合、その場で調停案の諾否を決めないといけないことになります。
調停案に当事者が同意せず、話し合いでの解決が難しい場合、調停は不成立となります。この場合、労働審判委員会が、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、解決方法を決定します(これを労働審判といいます)。なお、労働審判委員会が出した調停案は評議を経て形成された心証に基づくものなので、労働審判でも調停案と近い内容の判断が出されるでしょう。
労働審判に不服がある当事者は、労働審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます。異議が申し立てられた場合は、自動的に通常の民事訴訟手続に移行し、改めて審理がされることになります。
4 労働審判手続の大まかな流れは以上のとおりですが、A社としては、短期間で答弁書の作成や証拠の収集をしなければならないこと、A社の担当者も期日に出席し事情を説明する必要があることから、弁護士と相談しつつ十分な準備を迅速にすることが大切です。