前回、定額残業代に関する裁判についてご紹介したところ、みなさまからいくつかの反響をいただきました。そこで、今回から労働裁判に関して目についたものを、その概要をご紹介していきたいと思います。 初回は、表題の事件を取り上げます。
県立病院の産婦人科に勤務する医師らが、宿日直勤務及び宅直勤務は時間外・休日勤務であるのに割増賃金が支払われていないとして、県立病院に対し、労働基準法37条に基づく割増賃金の支払を求めた事案。
この病院では、救急の受け入れ対応、また入院患者の夜間の出産等があることから宿直勤務として医師1名が勤務することになっていた。
また、救急と出産手術が重なることがあるため、医師たちが自主的に交代で宅直当番を決め、宿直勤務担当医師が一人で処置を行うことが困難と判断した場合、宅直当番の医師を呼び出すこととなっていた。また、宅直勤務担当医師は、自宅から離れないこととなっていた。そして、このような運用が数年間行われており、このことは病院も認識していた。
宿直勤務については、実際に職務に当たっていない時間(いわゆる待機時間)を含め時間外労働であると認定した。
対して宅直勤務については、実際に呼び出されて処置の対応した時間は時間外労働と認めた。しかし、自宅等で待機している時間は労働時間とは認めなかった。
宅直勤務の労働時間性について検討をしてみたい。
今回の事案のように明示の業務命令がない場合、労働時間か否かは、黙示の業務命令があったか否かで判断される。そして、今回のような場合は、通常、黙示の業務命令が認められると筆者は考える。
しかし、今回の裁判所の判断は黙示の業務命令を認めなかった。その理由を裁判所は、医師は患者から呼び出されるのが当たり前で、プロフェッショナルとして呼び出し対応が社会的に要請されているからとしている。つまり、プロは誰の指示も受けないで動くというのが理由のようだ。
今回の判断は、医師という特別な職業に従事する者に対する判断であって、他の職業には当てはまらないと考える方が良いでしょう。
なお、この裁判の中で裁判所は次のように述べている。
「プロフェッションとは、学識(科学または高度の知識)に裏づけられ、それ自身一定の基礎理論をもった特殊な技能を特殊な教育または訓練によって習得し、それに基づいて、不特定多数の市民の中から任意に呈示された個々の依頼者の具体的要求に応じて具体的奉仕活動を行い、よって社会全体の利益のために尽くす職業であるとされている。」
これを聞いて筆者は筆者自身が「プロフェッショナル」なのだろうか疑問を持った。その判断は皆様にゆだねたいと思う。