第186回通常国会は6月22日、150日間の会期を閉じ、安倍内閣の安定ぶりを象徴するように、政府提出の新規法案の成立率は97.5%で、7年ぶりに90%を超える高率となりました。
厚生労働関係では、11本中9本の成立。労働者派遣法改正案は秋の臨時国会で出し直すことを前提とした「廃案」、有期雇用の特別措置法案は参院で継続審議となりました。
主な内容は以下の通りです。
3月27日に衆院を通過し、4月16日に成立。改正の中心は同法8条で規定している「差別的扱いの禁止」の範囲拡大。同法ではパートタイマーであることを理由に「通常の労働者」(正社員)と異なる労働条件で就労することを禁止していましたが、対象は①正社員と職務内容が同一、②人事活用の仕組み・運用が同じ、③無期雇用あるいは実質無期雇用――の3要件を満たすパートに限られていたことから、対象者は全パートの1.3%程度に過ぎませんでした。
今回、3要件のうち③を削除して、①と②の2要件を満たすパートに対象を拡大するもので、厚労省の試算では新たな対象者は約10万人、比率は2.1%程度に上がるとみられています。施行日は平成27年4月1日。
精神障害の労災認定件数の増加に伴う「メンタルヘルス対策の充実・強化」が主要項目のひとつ。具体的には、「ストレスチェック制度の創設」が事業主にとっての留意点です。
平成27年12月までに施行される予定(今後政令で規定)
6月5日に衆院を通過させたものの、参院では時間切れで審議入りに届かず、継続審議となりました。昨年の臨時国会で成立した国家戦略特別区域法の規定などを踏まえ、有期の業務に就く高度専門的知識を有する有期雇用労働者について、労働契約法に基づく無期転換申し込み権発生までの期間に関する特例を設ける法案です。
具体的には、労働契約法の「無期転換ルール(5年ルール)」が適用される有期労働者のうち、①一定の期間内に完了する業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識、技術または経験を有する人(上限10年)、②定年後に同一の事業主、この事業主と一体となって高齢者の雇用の機会を確保する事業主に引き続いて雇用される高齢者――に限って例外とするもの。
なお、この例外とするためには、雇用管理に係る計画を作成し、認定を受けることが必要となります。
「無期転換ルール」は平成25年4月に施行された改正労働契約法の規定で、同一職場で平成25年4月以降から5年以上働いている有期契約社員(パート、契約などの非正規社員)が無期契約への転換を申し出れば、企業側は拒否できないというものです。
政府・与党は5月中旬に会期中での成立を事実上断念していましたが、衆院での「審議入り」にはぎりぎりまでこだわり最終盤では「提案理由の説明」にこぎ着けて「審議入り」の足跡を残すことに専念したものの、11本の中で唯一「審議入り」に至りませんでした。
結果的に政府・与党は、条文誤記問題をクリアにするため、いったん「廃案」とする手法を選択。ただし、今回の対応が法案そのものを完全に引っ込める一般的な「廃案」とは異なり、問題となっていた条文の誤記部分を修正し、秋の臨時国会に改めて提出されるようです。
なお、最終的に「廃案」という対応を余儀なくされた条文の誤記は、特定派遣事業の廃止に伴う経過的罰則規定の部分で、「処分に違反した者は、一年以下の懲役」とするところを「一年以上」と記載してしまったミス。
秋に出し直す予定の派遣法改正案は、新たな期間制限、特定派遣事業の廃止に伴う全事業者の「許可制」移行、さらに、派遣元に対する派遣労働者への雇用安定に向けた対応、キャリアアップ措置の義務化など、規制のかけ方を抜本的に見直す内容。秋の臨時国会の展開が注視されます。