前回、労働時間の三位一体改革の目的をお話ししましたが、今回は政府の提言する「新しい労働時間制度」に対する反論を紹介します。
- 過労死を容認し助長するものであるという反論です。現行法では、使用者は労働者に対し原則として法定労働時間(週40時間、1日8時間、週休1日)を超えて労働させてはならないと規定しています。
ところが新しい制度は、労働基準法の労働時間規制を適用しないとするものですから、例外的に時間外労働(残業)をさせる場合は、割り増しの残業代を支払わなければならないという義務を課することで長時間労働を抑制するというこれまでの安全弁が機能しなくなるおそれがあります。そのため、労働者は成果を求めるために無制限の労働を強いられる結果を招く可能性があります。現在、過労死・過労自殺の労災件数も増加傾向にあり、また長時間労働や職場のストレスなどによる精神疾患の労災件数も過去最高を記録している状況です。このような状況では、新しい制度は過労死やうつなどの労働者の生命と健康を脅かすものだとする批判です。
- 監督官庁の監督が行き届かなくなるという反論です。限定的であれ、法定労働時間の規制をなくすものですから、いわゆるホワイトカラー・エクゼンプションに対する長時間の加重労働に対する取り締まりができなくなってしまうというものです。
- 新しい制度の適用対象労働者の範囲がなし崩し的に拡大するおそれがあるという反論です。今回閣僚間合意をした新たな労働時間制度の対象となる労働者は、①「職務が明確で高い能力を有する労働者」で②「少なくとも年収1000万円以上の労働者」となっていますが、①の用件はあまりに抽象的で限定する機能を果たしていないとし、②の年収要件はなし崩し的に引き下げられる危険性があるとするものです。