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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第71号 平成26年9月1日

税理士事務所の職員に対し、裁量労働制の適用が認められなかった事例

~裁量労働制(exemption)の適用を受けられる労働者は狭い~
レガシィ事件(東京高裁26.2.27判決)

今回取り上げる事例は、裁量労働制を適用することができる労働者の範囲についての事例となります。
現在、安倍政権のもとホワイトカラーエグゼンプション(一定の労働者に残業代を払わなくてよい制度)の導入が検討されています。現行法でも、裁量労働制という労働時間の長さにかかわらず賃金を決める制度があり、今回の事例はホワイトカラーエグゼンプションを考えるうえでも参考になるかと思います。

事案の概要

税理士法人に勤務し、確定申告に関する業務、土地等の簡易評価の資料作成業務等を行っていた職員が時間外勤務手当の支払いを求めた。税理士法人側は、この職員には裁量労働制が適用されるため時間外手当の支払い義務はないと争った。なお、この職員は既に公認会計士試験に合格していた。また、この税理士法人においては裁量労働制に関する労使協定が締結され、労働基準監督署への届出も行われていた。

裁判所の判断

裁量労働制の対象となる「税理士の業務」とは、税理士となる資格を有し、税理士名簿への登録を受けた者自身を主体とする業務をいうと解するのが相当である。そして、この職員は、税理士となる資格を有せず、税理士名簿への登録も受けていなかったのであるから、この職員がおこなった業務は裁量労働制の対象となる「税理士の業務」ということはできない。したがって、税理士法人は、この職員に対し、時間外労働についての割増賃金を支払う義務がある。

考察

今回、税理士法人は、裁量労働制の対象となる業務の範囲について、その業務を行う手段や時間配分の決定などについて使用者が具体的な指示をすることが困難な業務か否かという観点から実質的に解釈されるべきであると主張した。そして、裁量労働制の対象業務とされた「税理士の業務」とは、飽くまで、法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいうのであり、税理士法上、税理士のみならず税理士法人が税理士の業務を行うことが予定されている以上(税理士法)、税理士として登録していない者が、実質的に税理士の業務を行うということも当然にあり得るところであり、税理士法に規定する税務代理、税務書類の作成等が「税理士の業務」の例であるとする通達も、税理士として登録している者しか「税理士の業務」の主体になり得ないことまでは意味していない。したがって、税理士登録をしていないこの職員に対しても裁量労働制は適用されると主張した。
しかし、裁判所は「税理士の業務」について資格の登録をしているもののみが対象となると示している。その理由として、裁量労働制が労働者が実際に労働した時間を問題としないで、労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなし、割増賃金の支払を不必要とするというものであり、賃金面で労働者の不利益となる可能性がある制度であるため、その対象業務をできる限り明確化すべきことにあったと解されるからとしている。

裁量労働制についての裁判例は少ないことから、今回の対象を狭く解するこの裁判例は裁量労働制の対象労働者を考えるにあたり参考となると思います。裁量労働制を導入し、対象を広く設定している事業所においては見直しが必要かもしれません。また、今後のホワイトカラーエグゼンプションの対象者の範囲も狭いものに決着する可能性があるかもしれませんね。

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