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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第99号 令和元年5月1日

伴弁護士の法律の窓

取締役解任の正当理由

[質問]
当社の取締役の1人であるXから持病が悪化したため、当社の業務を退き療養に専念したいとの申出がありました。しかし、任期満了までは取締役を辞めたくないと述べています。
このような場合Xを解任することができるのでしょうか。また、解任をする際に何か気をつけるべきことがありましたら教えて下さい。

[回答]

  1. 取締役は、いつでも、株主総会決議によって解任することができます(会社法339条1項)。ここでは、取締役の解任理由は問題とされておらず、解任に何らの理由がない場合であっても、株主総会決議さえ経れば、取締役は解任されることになります。
    ただし、解任された取締役は、株主総会決議による解任に「正当な理由」がない場合に、会社に対し損害賠償請求を行うことができます(法339条2項)。
    では、どのような場面に正当な理由がない解任とされるのでしょうか。

    1. 正当な理由があるとされた例
      取締役の職務執行上の不正行為や法令定款違反行為があった場合、心身の故障により職務遂行に支障がある場合、職務への著しい不適任(取締役として必要な能力が著しく欠如している場合)等、客観的、合理的な事情が存在する場合に正当な理由があるとされます。
      例えば、特定の業社と癒着しリベートを要求する等、取締役の地位を利用して不当に自己又は第三者の利益を図る行為をした場合(東京地判平成8年8月1日)、持病の悪化のために会社の業務に退き療養に専念する場合(最判昭和57年1月21日判示)、オーナー一族の意向を無視して独断専行の業務執行を行った場合(大阪地判平成10年1月28日)等につき、正当な理由があると判示されております。

    2. 正当な理由がないとされた例
      正当な理由がないとされた裁判例としては、大株主の好みや、単なる主観的な信頼関係の喪失を理由とする解任の場合に正当な理由がないとされています。
      例えば、仕事熱心で会社のために貢献していた取締役が、会社代表者と折り合いが悪くなったために会社内で孤立し解任されたケースにつき、正当な理由はないとの判示がされています(東京地裁昭和57年12月23日)。
      なお、解任理由につき正当な理由がない場合には、会社は損害賠償責任を負うことになります。通常は、解任された取締役が残任期間で得られたはずの報酬額が賠償金額と考えられています。

    3. 正当な理由があるか否か判断が分かれる場合
      取締役が経営上の判断に失敗をした場合に、解任につき正当な理由が認められるかについては争いがあります。例えば、神戸地判昭和51年6月18日判決は、取締役の経営判断を尊重して、解任事由なしとされました、その一方で、経営上の判断の誤りによって会社に損害が与えた場合には解任事由について正当な理由があると判断されたケースもあります(広島地判平成6年11月29日)。
      取締役が解任により任期中の報酬を得られなくなることをおそれて経営判断を萎縮してしまうなどの理由から正当な理由に当たらないとする見解も有力であり、学説上も見解が分かれている状況です。
  2. 上記裁判例を参考にすれば、質問者のケースでは、持病の療養に専念するとの理由による解任となるため、正当な理由があるということができます。
    したがって、株主総会決議によりXを解任しても、貴社がXに対し、損害賠償責任を負うことはないでしょう。

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