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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第120号 令和4年11月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

試用期間中の従業員の本採用拒否

【質問】

当社は、入社後3か月間を試用期間とし、入社した従業員の人物や能力を見て当社で働く適格性があるのかどうかを評価しています。この度新卒で入社した従業員が、他の従業員との協調性に問題がある上に、当社が求める水準の業務遂行能力がなさそうです。これでは当社で働いてもらうには厳しいので、試用期間終了時に本採用を拒否しようと考えています。あくまで試用期間中の従業員なので、当然、本採用拒否しても問題は生じないですよね?

【回答】

試用期間中の従業員といえども、会社に合わない従業員を簡単に本採用拒否(=解雇)できるわけではありません。
本採用拒否を考えているのであれば、基本的には、すでに本採用されている正社員を普通解雇する場合と同じような姿勢で臨むべきでしょう。

【説明】

  1. 一般的に、試用期間中の従業員と会社との間では、解約権留保付きの労働契約が締結されていると考えられています。
    そして、解約権の行使(=今回でいえば本採用拒否)は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されます。

    具体的には、会社が、採用決定後における調査の結果や試用期間中の勤務状態などから、当該従業員について、当初知ることができず、または知ることが期待できないような事実を知るに至った場合に、そのような事実に照らして当該従業員を引き続き会社で雇用しておくことが相当でないと判断することが解約権留保の趣旨、目的に徴して客観的に相当であると認められる場合には解約権を行使することができるというわけです(最高裁昭和48年12月12日判決)。

    このように、裁判実務上、解約権の行使が認められる場合が限定されているため、試用期間中の従業員であるからといって簡単に本採用拒否ができるわけではありません。特に、新卒採用者の場合は、勤務を継続する中で必要な能力を習得することが予定されているので、単に平均よりも能力が低いというだけでは本採用拒否は認められないでしょう。
    本採用拒否の有効性の判断においては、当該従業員の協調性や能力がどの程度低いのか、指導・教育により改善の見込みがどの程度あるのかがポイントとなってきます。そのため、当該従業員の協調性や能力が低いことを裏付ける客観的な資料を集め(例えば、職務遂行能力に関するテストを行う、指導・教育したのであれば、その指導・教育の内容や結果を記録に残しておくなど)、十分に検討した上で本採用拒否に踏み切るか決定する必要があるでしょう。

  2. なお、試用期間が終了する前に能力不足などを理由として従業員を解雇する場合は、本採用拒否よりもその解雇の有効性は厳格に判断されます。
    残りの試用期間の教育により必要とされる水準まで能力を高める可能性が残っているからです。実際に、3か月の試用期間のうち20日を残して能力欠如を理由に解雇することは、解雇すべき時期の選択を誤ったものであり、客観的に合理的な理由を有し社会通念上相当であるとはいえないと判断した裁判例があります(東京地裁平成21年10月15日判決)。

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