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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、
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第131号 令和6年9月1日

伴弁護士の法律の窓

【テーマ】

死亡保険金と特別受益

【質問】

父の事業を承継する予定ですが、相続において死亡保険金を受けとると、遺産分割や遺留分請求において特別受益として考慮されますか?

【回答】

原則として考慮されませんが、特段の事情があると考慮されます。

【説明】

    1 受取人が指定されている死亡保険金は、被相続人の死亡によって、はじめて受取人が取得する受取人固有の権利です。

    被相続人が生前に所有していた財産とは性質が異なるため、死亡保険金は遺産ではありません。これに対し、相続税の申告の際、死亡保険金は、みなし相続財産として相続税が課税されます。しかし、これは相続税の計算の場面においてのみの取り扱いで、法律上は遺産ではないものと解釈されています。

    2 相続人の中に、生前に被相続人から生活費などとして贈与を受けたり遺贈(遺言によって財産を無償で与えること)を受けたりした者がいる場合、これを「特別受益」と呼びます。特別受益は、遺産分割の場面と遺留分侵害額請求の場面において、意味を持ちます。

    遺産分割の場面においては、特別受益の額を遺産総額に加え、この金額に基づいて各相続人の相続分を算定し、特別受益者は受益額の分だけ取得額が減少します(特別受益の持戻といいます)。
    また、遺留分侵害額請求の場面においては、原則として過去10年以内の特別受益の額を遺産総額に加算した金額に基づいて遺留分侵害額を算定します。
    死亡保険金の受け取りが特別受益になるのであれば、遺産分割の場面においても遺留分侵害額請求の場面においても、保険金額が考慮されることになり、受取人以外の相続分や遺留分が増えることになります。
    しかしながら、最高裁判所は、死亡保険金は、受取人として指定された者の固有の権利なので、死亡保険金の受領は特別受益にはあたらないと判示しています(最高裁判所平成16年10月29日決定)。

    3 しかし、法律的な理論はともかくとして死亡保険金を受けとった相続人とそうでない相続人の間に不公平が生じることは否定できません。そこで、最高裁判所は、相続人の間に生じる不公平が、特別受益の規定の趣旨に照らして到底是認することができないほど著しいと評価できる「特段の事情」がある場合、特別規定の規定を類推適用すると判事しました(最高裁判所平成16年10月29日決定)。

    そして、この「特段の事情」があるか否かを判断する材料として、以下の事情などを考慮するべきと判示しています。
    ①保険金の額
    ②保険金の額の遺産総額に対する比率
    ③同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人及び他の相続人と被相続人の関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情

    4 それでは、どのような場合に、「特段の事情」があると言えるのでしょうか?

    最高裁判所の基準は抽象的なので、その後の下級審の裁判所(家裁、地裁、高裁)は、具体的なケースごとに、総合的な事情を考慮して判断しています。そして、その判断の際しては、上記②の「保険金の額の遺産総額に対する比率」を重要な要素として、考慮する傾向があります。
    ただし、特別受益の類推適用を否定した裁判例が多く、類推適用を肯定した裁判例は少ないのが実情です。肯定例は、遺産総額に対する保険金の割合が50%を超えているものが多いですが、保険金額が遺産総額の3分の1を超える場合には、特別受益の規定の類推適用を肯定する方向で検討する必要があると主張する識者もいます。裁判例がより蓄積されないと「特段の事情」が認められる基準はまだまだ不明確なのが現状です。

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