今回から、「会社のための会社法」と題して連載を始めさせていただきます。
前号でご案内した通り、第1回目は、「代表取締役の意義」と題して代表取締役は法律上どういう人と考えられているかについてお話ししたいと思います。
会社法には、取締役、取締役会、代表取締役といった機関を設けることができる旨が規定されています。なお、取締役会や代表取締役の設置は自由となっています。従って、取締役会や代表取締役がない、いない会社も多くあります。今回は、取締役会設置会社で代表取締役がいる場合を例に話しを進めたいと思います。
会社法では、各機関が次のような職務を行うものと考えられています。
取締役会 | 業務執行の決定を行う。 |
取締役 | 取締役会の構成員としての職務を行う。 |
代表取締役 | 株式会社の業務に関するすべての行為を行う。 |
代表取締役は「会社の業務に関するすべての行為を行う」とされていますが、このことが何を意味するのでしょうか
その答えを考えるに当たり、まず、「会社とは何か」ということについて考えてみたいと思います。
例えば会社が物を買うという行為を例に、考えてみたいと思います。会社が物を買う時は、
まず、
そして、
ことになります。
この1のことを一般に「意思決定」といい、2のことを「業務執行」といういい方をします。会社という法人は実体がありません。したがって、自ら1と2の2つの行為ともすることができません。そこで、この1と2を実際に行う人が必要となるのです。これを会社法では機関と呼びます。
会社法では、1を行う機関が取締役会であり、2を行う機関が代表取締役ということになります。取締役は、取締役会に参加し、意思決定に関わることになります。
一般の人は、「代表取締役はなんでも決めている」と考えているかもしれません。しかし、それは間違いです。会社法では、代表取締役は決められたことを実行する人(機関)なのです。何をするのかを決めるのはあくまで取締役会ということになります。
この様な説明は、抽象的にはご理解いただけたかと思います。しかし、実際の会社の運営となると、すべてのことを取締役会で決めるこというのは現実的ではありません。先ほどの例で、何かを買うにしても、同様の商品が多数並んでいるときに、その中からどの商品を手に取るかも意思決定といえば意思決定です。
身近な例でお話しすると、会社の経費でリンゴを1つ買うことになった場合、リンゴを1つ買うことを決めるのは取締役会ということになります。そして、スーパーに行ってたくさん積んであるリンゴから一番おいしそうなものを選び、これを買うと決めてレジまで持って行ってお金を払って買うのが代表取締役ということになります。つまり、リンゴを買うか否かを決めるのは取締役会で、実際に手に取る時にどれにするのか決め、そしてお金を払うのが代表取締役ということになります。
この例でも分かるように、実際にはどの範囲の決定まで代表取締役が行うことができるかは明確化されていません。判断の基準として、実際に執行を行う(買う)という時に決めなければならない点についての決定が代表取締役にゆだねられていると考えるのが良いと思います。
代表取締役が決定できる範囲は意外と狭いと感じられたのではないでしょうか。買うか買わないかの決定はあくまで取締役会で、実際に買いに行くのが代表取締役であるというイメージは企業統治を行う上で重要な視点かと思います。皆様もこの点を気を付けていただければと思います。
さて、一般の人は代表取締役がなんでもできると思っている場合が多いです。そこで、取締役会決議がないにもかかわらず、代表取締役が勝手に何かの契約をした場合、はたしてその契約は有効か否か問題となります。
そこで、次回は、「取締役会決議を経ない取引の効力」というテーマでお話ししたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。