前回は、代表取締役の意義について取り上げました。そこでは、代表取締役は決定機関というより、執行機関であるということをお話ししました。今回は、代表取締役が決定機関である取締役会の決議がないにもかかわらず、第三者と契約等の決定をした場合の効力について考えてみたいと思います。
前回お話しした通り、会社の意思決定と執行は別となっています。今回のような多額の借財は、意思決定は取締役会で行い、その執行を代表取締役が行うことになります。このことは、会社法で「多額の借財についての決定は取締役会が行わなければならない」(会352条)とされていることからも明らかです。従って、取締役会の決定を経ない今回の取引は法律違反ということになります。
そこで、今回の取引を快く思っていない会社としては、法に反する取引だから無効であると、取引相手に対し支払を拒否することを考えるかもしれません。しかし、これでは取引相手が困ります。社長を信じて賃貸借契約を結んだのにも関わらず、突然無効だと言われても、寝耳に水という感じでしょう。これでは、おちおち商売もできません。広く考えれば、不安・不信社会となって、経済的にも問題があります。従って、この両者の調整が必要ということになります。
そもそも、取引相手が困ることになった理由は、相手を信頼したからに他なりません。そこで、取引相手が、当該取引について取締役会の決定を経ていないことを知っていたならば、その信頼は保護する必要はないでしょう。判例でも、「相手方が決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときは無効である」としています。
また、今回会社が無効を主張したい理由は、会社の利益を損なう取引であるからです。会社の利益とは、株主の利益とも読み替えることができます。従って、取締役会の決定を経ていなくても、株主全員が了承していれば会社の利益を損なう事は無いといえます。よって、このような場合には、無効となりません。
まとめると
社長も取引は慎重に行わないと信用を失うことになりかねないので注意が必要ですね。