雇用契約とは、労働者が労務を提供し、会社がそれに対し賃金を支払うことを意味しています。そこで雇うのならば、業務に耐えうるだけの心身ともに健康な方を雇いたいと思うのは、会社として当然でしょう。
身体的疾患や精神障害があることを理由に採用しないことは会社の自由です。
従って、「社員が健康であるかどうか」は、採否を決める重要な要素となります。
たいていの会社は、心身ともに健康に働くことができ、完全な労務提供ができることを前提に、採用時の賃金を決定しているはずです。
採用に際しては、応募者の健康状態をチェックした上で、会社のとって適切な人を採用することが大切です。
なお、社員として採用した後は、会社は社員個々人の健康状態を把握した上で、個々人について労務管理を行う義務を負うことになります。
職業安定法第5条の4では、社員を募集するに当たって、業務の目的の達成に必要な範囲内で個人情報を収集することができると定めています。
たとえば、高所作業や温度の高い作業環境の中で業務に従事してもらうような場合には、採用前に血圧を把握しておく必要があるでしょうし、日本全国・海外にも転勤の可能性がある会社であれば、国内転勤や海外赴任にも耐えられる健康状態であるかどうかの健康情報を収集することが求められるでしょう。
つまり、当然のことながら、業務に関連する項目について必要な範囲であれば、健康状態について事前に調査することは認められています。採用後、むしろ調査しなかったことを原因としたトラブルを起こすことのないように、会社は、個人情報の取り扱いに注意したうえで、必要な情報は収集しておくべきと考えます。
最近ではメンタルヘルス不全が原因で欠勤や休職するケースが増えています。しかし、本人に事情を聞いてみると、実は入社前から精神疾患の病歴があったことがわかることが少なくありません。
メンタル面での病歴は、担当者としても聞きにくく、また何となく聞いてはいけないものであるように思われがちですが、採用面接において精神疾患を含めた過去の病歴を聞くことは、原則として認められています。
精神疾患の病歴についても、疾病によっては業務の遂行に支障が出る場合があります。心身ともに健康で働いてくれる人を採用したいという会社の考えは尊重されており、当然就職差別につながらないように注意しつつ、業務の目的の達成に必要な範囲内で収集することは可能です。
過去2年間など、一定の期間を区切って聞くことなどが考えられますが、口頭では聞きづらいことでもあると思いますので、「健康調査表」などを作成して、面接時に記入してもらうことも有効です。
なお、ご参考まで弊社で使用している「面接時確認シート」を掲載します。今回のテーマではございませんが、弊社では採用応募者の方にはこのシートで、健康状態だけではなく、育児・介護、転勤・職種変更等の事項についても申告していただいています。
※「面接時確認シート」のデータをご希望の方は、担当者あてご一報下さい。
ただし「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するたに事業者が講ずべき措置に関する指針」における記述には留意が必要です。ここには雇用管理を行なうにあたって、「HIV」「B型・C型肝炎」等の感染情報については、業務上の特別な必要がない限り取得するべきではないとされています。
また、色覚異常等の遺伝情報においても、就業上の配慮を行なうべき特段の事情がない限り、一律に取得するべきではないとされています。