今回取り上げる事件は、うつ病を発症した部門長が自殺した事案において、労災請求が認められた事案です。
うつ病と自殺という事案は、以前より問題とされていました。中小企業においては、従業員がうつ病になってしまうということはあまり多くはないし、まして自殺にいたるケースなど皆無に等しいと感じている事業所様もいらっしゃるかもしれません。しかし、精神疾患にかかるケースは決して少なくなく、また自殺に至らなくてもその病気自体が労災給付の対象となりえることから中小企業においても認識が必要な問題です。
また、今回の事案の特徴は、部門長に昇格したことが労災認定の際に大きく影響しています。中小企業の場合、人が少なくどうしてもできる人に仕事が集中しがちです。「仕事はできる人に集中する」という考えに警笛を鳴らすものとして参考にしていただければと思います。
株式会社CSK(以下「会社」という。)で就労していた従業員が,平成15年12月20日,自殺により死亡したところ,同自殺による死亡が会社における過重労働等業務に起因して発症した精神障害(うつ病)に起因するものであるとして,天満労働基準監督署長(以下「監督署」という。)に対し,労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料の給付の支給を求めた事案。
本件における業務と同人に発症した本件疾病(精神疾患)ないし自殺との間に相当因果関係があるか否かは,厚労省認定基準を参考としながら,本件における個別具体的な事情を総合的に斟酌し,必要に応じてこれを修正しつつ,客観的な見地から判断するのが相当である。
従業員に発症した精神障害である軽症うつ病エピソード(本件疾病)は,業務による心理的負荷によって発病したと判断される。そして、本件疾病によって,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定されるのであって,自殺は同人が従事した業務に内在する危険が現実化したものと認めるのが相当であり,自殺は業務に起因するものというべきであるとされた。
労災認定基準の3つのポイント
認定基準では,以下の①~③の要件のいずれをも満たす対象疾病について,業務上の疾病として取り扱うものとしています。
そして、精神疾患と自殺の問題は以前よりありましたが、今回の事案の特徴は、昇進したことを中心にとらえていることです。具体的には、昇進したこと自体は、心理的負荷は「弱」としながらも、労働時間とあわせると最終的に心理的負荷の総合判断を「強」としています。
特に注目すべき点は、部門長への昇進を「出来事」としてとらえ、「出来事に対処するために生じた長時間労働は、心身の疲労をさせる」としていることです。
つまり、仕事ができる人が昇進し、部門長としての仕事量が増え残業すると、その点をとらえて、心理的負荷が「強」と判断されるのです。逆の言い方をすれば、同じ時間残業していたとしても、昇進していなければ心理的負荷が「強」とはならない可能性があったということです。
会社は、昇進すれば管理職だからその者に対する管理は不要ないしは弱くてよいと考えがちです。しかし、昇進後一定期間については、その従業員に対し更なる管理が必要というこという認識を持つ必要があるかもしれません。
また、今回の事案では、心理的負荷を認定する労働時間を算定するにあたり、大都市ななどへの出張等でなれた移動時間や待機時間についても、特別自由に過ごせたというわけではなければ、労働時間の負荷の算定に含まれるとされている点にも注意が必要です。「あいつは、移動時間が多いから心理的負荷はない」などと簡単に考えるのは危険ということですね。