けがや肉体的な病気の場合、「症状固定」という概念によって、「完治」や「後遺症認定」が行われます。「完治」は、元の状態に復帰するということですが、元の状態に回復できなくて後遺症が残ることがあります。それでも症状固定し、予後に注意していれば受傷時、発症時より悪化することはなく、「復職」可能かどうか、又は同一業務に復職することはできなくても、同一企業内で別の業種の仕事が(あることを前提に)可能かどうかという判断をしていきます。
これに対して、精神的な病には「症状固定」という概念ではなく、「緩解」という概念が使われます。「緩解」とは、病気の症状が軽減またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態を言います。治癒とは異なります。症状が薬物等でコントロールされているという状態ですので、メンタルな要因でコントロールできなくなる可能性が出てきます。そのため、「完治したケガ」などの場合と異なり、「緩解」したかどうかについて、「従前の」職務を通常程度行える健康状態を要求することは難しいと思われます。なぜなら、従前の精神的負荷が精神的疾患の発症原因となったのですから、労働者に同じ負荷を掛けてしまうこととなり、たとえ薬物でコントロールしていても、再発する危険性が高いからです。使用者の健康配慮義務違反が債務不履行として責任を負うかどうかの議論に結びついてきます。使用者が精神的疾患者について、復職について消極的になり、その点で労働者との争いが激化することになります。
使用者としては、就労拒否による賃金の支払いと就労に際しての配慮義務違反の相克に悩むことになりますが、疾病再発については、労働者も注意義務を負うと考えるべきです。