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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第89号 平成29年11月1日

伴弁護士の法律の窓

労働者に対する貸付けと、給与天引きの方法による貸付金の回収

[相談内容]
当社は、生活に困っている従業員Aさんにお金を貸してあげようと思います。貸付金の回収方法は、Aさんの毎月の給与から天引きするつもりですが、何か問題はありますか。

[回答]

(1)問題の所在

労働者へ貸し付けた金銭の回収方法を給与天引きとする場合、賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)との関係が問題となります。

(2)「賃金全額払いの原則」とは

使用者は、原則として、労働者に対して雇用契約で定める賃金の全額を支払う必要があり、賃金の一部を一方的に控除して支払うことは認められません。これを賃金全額払いの原則といいます。そして、使用者の有する債権と労働者の有する賃金債権とを使用者が一方的に相殺することは、ここでいう「控除」の一種として禁止されます。
労働基準法がこのような原則を定めた趣旨は、使用者がその強い立場を利用して一方的に賃金を控除することを禁じることにより、労働者に確実に賃金全額を受領させてその生活を安定させるためです。
仮に、使用者が全額払いの原則に違反した場合、賃金が未払いと扱われるリスクが発生します。また、刑事罰の対象にもなりますので、十分な注意が必要です。

(3)「賃金全額払いの原則」の例外

全額払い原則にも例外が2つあります。1つは、法令に別段の定めがある場合です。例えば、給与所得税の源泉徴収、社会保険料の控除、財形貯蓄金の控除などが該当し、貸付金の弁済は該当しません。もう一つは、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(このような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者)との間で、控除を認める旨の書面による協定がある場合です。

(4)労働者との個別的合意

もっとも、裁判実務は、仮に上記の例外事由が存在しない場合でも、給与天引きを行うことにつき労働者との合意がある場合は、天引きは賃金全額払いの原則には違反しないという考え方を採用しています。ただし、ここでいう「合意」の有無の判断は厳しく、労働者の自由な意思に基づく合意であると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する必要があります。

(5)本件について

ご相談の件では、Aさんに貸付けを行う前に、あらかじめ、前述(3)の要件を満たす労働組合又は労働者代表者との間で、書面により、労働者に対する貸付金と給与天引きよる回収を認める内容の労使協定を結んでおくことが望ましいです。 事情により労使協定の締結が困難な場合は、Aさんに貸し付けを行う際に、具体的な天引きの計画等を明記した上でこのような天引きについてAさんが同意する旨を盛り込んだ金銭消費貸借契約書をAさんとの間で取り交わしておくべきでしょう(なお、労使協定がある場合でも、貸し付けに関する契約書はきちんと取り交わしておきましょう。)。

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