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機関紙 KAWA-RA版 労務管理や社会保険に関する話題の情報を、タイムリーにお届けする当事務所オリジナルの機関紙です。

第91号 平成29年11月6日

伴弁護士の法律の窓

貸金を分割で返してもらう場合の注意点

[相談内容]
当社は昨年、知人の会社から頼まれて300万円を貸し付け、今月末までに一括で返済して貰う約束になっていました。ところが、今月になり借主から、資金繰りが苦しいため毎月30万円ずつ10回に分けて支払うので、契約書を作り直してほしいと要望してきました。今回は応じようと思うのですが、どのような点に注意したらいいでしょうか?

[回答]

  1. 期限の利益喪失条項
     分割で弁済金を受け取る内容の借用書を作るときに、忘れがちなのが、期限の利益喪失条項です。これは延滞した場合などに、借主に残額を一括で支払う義務を負わせる条項です。分割で支払うことができるという期限の利益を喪失させるので、期限の利益喪失条項といいます。たとえば、30万円ずつ10回に分けて支払うという借用書を作る場合、次の例のような条項を定めましょう。
     第〇条 借主が第〇条の分割金の支払いを1回でも怠ったとき、借主は当然に期限の利益を喪失し、貸主に対し300万円から既払い金を控除した残金を直ちに支払う。
     期限の利益喪失条項がないと、たとえば、買主が分割金を支払わないので、法的手続をとろうとしても、期限が到来した分割金に関する分しか手続ができない可能性があります。
  2. 公正証書
     分割金の支払いができる限り確実になされるように、できれば公正証書により契約を結ぶのが望ましいです。公正証書のメリットは、訴訟手続をしなくても財産の差押え(強制執行)ができることにあります。契約書がある場合でも、財産の差押えをするためには、まず訴訟手続をして判決を取得した上で、判決正本に基づいて裁判所に差押命令発令のための申し立てをしなければならないのが原則です。しかし公正証書を作成しておけば、面倒な訴訟手続をしなくても財産の差し押さができます。
  3. 担保の設定
     公正証書に基づく財産の差し押さえができるとしても、差押えに適する財産がないというケースが多々あります。
     そこで、何らかの担保を確保するのが望ましいです。担保というと不動産がまず思い浮かびますが、銀行などの金融機関が既に先順位の根抵当権などを持っていると、物件に担保価値が残っていないことが多いのが実情です。

その場合に検討するべきなのが、借主の将来の売掛金債権にまとめて担保を設定する方法です。これは集合債権譲渡担保と呼ばれる方法です。具体的には借主が取引先に将来取得する売掛金債権をまとめて貸主に担保のために譲渡する約束をします。ただし、貸金が通常とおりに返済されている限りは、売掛金の取り立ては貸主に代わって借主が行います。そして、貸金の支払いが滞り借主が期限の利益を喪失した場合、貸主が自ら売掛金を回収して、貸金債務に充当します。

譲渡担保を売掛先に主張するためには、借主から売掛先に対し債権譲渡をした旨の通知をしなければならないのですが、この通知を譲渡担保契約時にすると借主の売掛先に対する信用が低下して不都合です。そこで、あらかじめ貸主が借主から押印済の債権譲渡通知書を預かっておき、期限の利益喪失時に、貸主が借主に代わって売掛先に通知書を送付するという方法が用いられます。しかし、この方法は他の債権者が先に売掛金を差し押さえた場合に譲渡担保の効力を主張できないという問題があります。
そこで借主が法人である場合に限られますが、債権譲渡登記の制度を利用するのが望ましいです。債権譲渡登記は売掛先に知らせずにすることが可能で、期限の利益喪失時には、登記事項証明書を売掛先に送付して通知することにより、売掛金の回収を行うことができます。また登記をすることで第三者にも譲渡担保の効力を主張できます。

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