外勤の営業職員に残業代を払っていない事業所は多いかもしれません。その理由として以下の3つが考えられます。
1.については、基本的に法律上認められません。2.については、実際の残業時間に基づく残業手当の額が手当の額を上回っている場合にはその差額を支払う必要があります。そして、3.については、労働基準法において、一定の要件のもと認められています。これを、事業場外のみなし労働時間制といいます。
今回の事案は、この3.についての最高裁判所の判断です。
阪急交通社が主催する、ヨーロッパ旅行の添乗業務に従事していた労働者が、この添乗業務につき、未払の時間外割増賃金等があると主張して、未払時間外割増賃金等の支払を求めた。
これに対し会社は、この労働者の勤務は事業場外労働のみなし労働時間制に該当するため、未払いの時間外割増賃金等はないと争った事案。
当該労働者の業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、事業場外のみなし労働時間制は適用されないとした。
事業所外のみなし労働時間制とは、
「労働者が労働時間の全部又は一部について、事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」
という制度です。
つまり、その要件・効果は
1. 要件 | (1)事業場外で業務に従事した場合 (2)労働時間を算定しがたいとき |
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2. 効果 | 所定労働時間労働したものとされる。 |
というものです。効果の「所定労働時間労働したものとされる」は、労使協定により、所定労働時間より長い時間を設定することも可能となっています。
今回の事案では、要件(2)の「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かが問題となりました。
今回の事案における添乗員は、ヨーロッパ旅行の添乗員として、一人でその職務にあたっています。従って、場所的・人的にも会社から物理的に離れたところで職務に当たっていたといえます。にもかかわらず、裁判所はこの添乗員の業務につき「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとしたのです。
その理由のポイントは、行動予定が定まっていて、行動実績の確認をしていた(できた)からといえます。
今回の事例を外勤営業職員に置き換えると、当日の行動予定を確認してから営業に行き、後日日報等で行動実績を確認している(できる)場合には、事業所外のみなし労働時間制適用を否定される可能性があるということになります。営業職員の時間外手当について、その管理を含め今一度確認の必要があるかもしれません。