今回取り上げる事例は、試用期間満了後に本採用をしなかった(解雇した)事例となります。
使用者の中には、試用期間中(満了)における解雇は自由に行えると考えている方が結構いらっしゃいます。しかし、実際には法的にかなり制限されている(解雇できない)のです。このことを理解いただくのに参考となる事例かと思います。
労働者は、動物病院(株式会社)に獣医師として採用された。就業規則には、試用期間が6月と定められており、協調性が乏しい、能力不足、その他採用がふさわしくない場合に本採用を拒否する旨が規定されていた。会社は、試用期間中の能力不足、同僚との協調性が乏しいこと、必要な教育の受講を拒否したことを理由として本採用を拒否し試用期間満了で解雇した。
本件解雇は、試用期間中の労働者に対する解雇であるところ、試用期間中の労働契約は、試用期間中に業務適格性が否定された場合には解約しうる旨の解約権が留保された契約であると解されるから、使用者は、留保した解約権を通常の解雇よりも広い範囲で行使することが可能であるが、他方、その行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合でなければならないというべきである。とし、請求金額のミスについては不注意の域を出ず、カルテの記載が不十分だった点も、その後に繰り返されているわけではないから過大に評価すべきではない。とした。
また、処方ミスと指摘した点についても致命的なミスとはいえない。院内での学科試験についても、勉強会を受講できなかったことや、原告の回答が医学的に誤りとまではいえない部分については一定の配慮があってしかるべきである。さらに、原告が獣医師として能力不足であって改善の余地がないとまでいうことはできない。また、診療及び再診件数を能力の判断基準とするのは酷な面があることも否めない。
院内勉強会への出席については、明確な業務指示を出したとは認めがたい本件において、院内勉強会への出席状況を勤務態度の評価に反映することには抑制的であるべきである。
そして、協調性の欠如については、具体的な事実関係を認定するに足りる的確な証拠がない。以上の諸事情を併せ考えれば、本件解雇は、留保解約権の行使としても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認されうる場合に当たるとはいい難く、留保解約権の濫用として無効というべきであるとした。
裁判所は、顧客に対する請求金額を誤ったことが3回あったこと、カルテの記載不備が2回あったこと、服用作用があり避けるべきとされている薬を処方したこと、診療・再診件数が同僚に比べ1/3程度であったこと、院内試験での結果が、6回中3回は最下位であったことについて、事実として認めている。にもかかわらず、結論として解雇無効としました。そのポイントは、「改善の余地がないとまでいうことはできない」の一点かと思われます。つまり、使用者は試用期間中改善措置を講じる義務があり、それを履行してもなお改善していないという結果がある場合に試用期間満了による解雇が認められるということです。今後、従業員を採用し、試用期間において思わしくないと思われる場合には、改善措置を講じること、改善措置を講じた結果を評価し、本人に伝えることが必要となります。合わせて重要なのは、これらの記録をきちんと残しておくということになるでしょう。