パワーハラスメント(以下「パワハラ」)は前回ご説明した通り、その内容や定義は定まってはおりませんが、一般的には「職場の力関係を背景としたいじめ」をパワハラと呼んでいます。
後篇では、企業に求められる対応について解説いたします。
上司と部下の関係は指揮命令関係が前提であるため、本来の指揮命令とパワハラの境界はあいまいになりがちです。上司によっては、パワハラに対する過剰反応で正当な指揮命令の行使を躊躇していまい、業務上の指揮命令そのものが機能しなくなる恐れがあります。
一方部下の側にも、自分にとって気に入らない指揮命令に対して、パワハラだと言いたてる者も出てくる場合があります。
そこでパワハラにあたるか否かの境界線の判断が重要となってきますが、この判断基準は、上司の指導、注意、叱責などの行為が「職務と関係があるものか」「業務上の必要性があるものか」ということになります。ただし、職務に関係があり、業務上の必要性があっても、その行為が「一般的に必要とされる範囲を逸脱していない」ことに留意する必要があります。また、相手の人格、趣味・嗜好・家族などプライベートな内容について否定するような発言は厳に慎むべきです。
そこで部下に対して正当な指揮命令を行うためには、上司は部下に対するほめ方、叱り方を習得し、日頃のコミュニケーションと信頼関係を深めることが不可欠です。また企業側は、これを上司側任せにするのではなく、研修などを通しての教育及び日頃の部下指導において迷った時の相談支援体制を構築することが必要と考えます。
労働契約法第5条では「使用者は労働契約にともない、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定しています。使用者は、職場環境を維持調整する義務があり、それを怠った場合には安全配慮義務違反として、責任を問われることになります。加えて民法715条の使用者責任に基づく損害賠償責任が生じることもあります。
企業がこのような責任を問われないようにするためには、常日頃からパワハラに備えた措置をとっておくことが必要です。
具体的には、パワハラの被害者がパワハラの被害を訴えることができる社内外の相談窓口を設け、訴えがあった場合には、放置せず必ずアクションを起こすことが大切です。第一のアクションは被害者から詳しく事情を聴くことです。さらに加害者側の話及び周囲からも話を聴き、事実関係を確認する必要があります。その結果、パワハラの事実が確認された場合は、被害者へのケアを含めた適切な対応と、加害者への懲戒処分も含めた対応それ相応の処分を検討・実施することになります。処分が円滑に行なうためには、就業規則等の服務規律や懲戒規定の整備も必要でしょう。
なお、パワハラ対応については、相談窓口の設置、調査、対応など「セクシュアルハラスメント」対応を参考にされると良いでしょう。
パワーハラスメント現状と企業に求められる対応(前篇)